博文館から講談社へ

私は出版業界と特に縁はありませんが、学生時代から雑誌研究をずっと続けてきたこともあり、図書館などで多少調べたこともありました。
ごく最近書店で見かけた本が日本の出版産業の歴史と現状をコンパクトにまとめていて、なかなか便利なので紹介しておきます。

出版産業の変遷と書籍出版流通―日本の書籍出版産業の構造的特質

出版産業の変遷と書籍出版流通―日本の書籍出版産業の構造的特質

道楽とも言われていた出版業を近代出版に成長させた博文館を代表する総合雑誌が『太陽』で、『少年世界』、『女学世界』、『少女世界』と雑誌名に「世界」と名付けた本が多いですが、明治28年に『文芸倶楽部』という雑誌も創刊していて、これは昭和7年まで続いていました。
博文館の天下を崩して出版界のリーダーシップを奪った実業之日本社は、明治42年の『婦人世界』1月号から、買切制に代えて委託制(返品制)を導入することで発行部数を一桁上げて25万〜30万部を発行し、これを講談社が倣って委託制が出版界に全面導入されるようになったとのこと。
出版王国の座を実業之日本社、次いで講談社に奪われた博文館ですが、大出版社として発行した雑誌の多くは昭和のはじめまで刊行されていました。探偵小説好きに知られている『新青年』は大正9年に『少年少女譚海』とともに創刊され、大衆向け読み物中心の総合娯楽雑誌ながら、名門出版社として豪華な執筆陣です。昭和期のものの復刻版を見ましたがモダンボーイ向けの洒脱な雑誌で、翻訳小説と海外漫画の翻訳も掲載され、今の雑誌でたとえると月刊プレイボーイみたいな感じがしました。『少年少女譚海』の方は巖谷小波が執筆しておりましたが、のちに『少年倶楽部』に影響を与えたと思われます。