明治時代以来の少年少女雑誌

『少女の友』の創刊100周年記念号がようやく出版されました。

日本の出版史においても特筆すべきこの雑誌は、明治41年に創刊され昭和30年まで刊行されました。終刊から50年を経過してしまって昭和前期の全盛期の読者も高齢になっておりますが、昭和恐慌から日米開戦という暗い世相の中で読者たちと編集者および作家との強い結束により雑誌史上もっとも強力な読者コミュニティーが築かれて類い稀なる雑誌となっていました。
監修に携わった内田静枝さんは弥生美術館で開かれた数々のすぐれた企画展を手がけています。内田さんの仕事に触れなければわたしなりに少女漫画の歴史を調べてきても戦前の作家や作品についての調査には踏み切らなかったかもしれません。

やはり内山基が主筆になり中原淳一を発掘して少女たちを魅了した昭和6年以降が主になりますが、かつて児童文学研究がこの時代の少年少女雑誌を黙殺していた時期もあったのです。1984年に開館した弥生美術館ではのちに雑誌の付録の企画展を開くなど少年少女文化の展示でも画期的な役割を果たしてきました。中原淳一に師事した内藤ルネの再評価などは記憶に新しいところです。松本かつぢの一番弟子だった漫画家の上田トシコさんが昨年亡くなられたのは全く残念でしたが、今回の出版では主要作家紹介の中でかつぢのデビューが『少女世界』と記されており、人気を失って昭和6年には終刊となる博文館の『少女世界』から当時の画期的な児童絵雑誌『コドモノクニ』の版元である『少女画報』、そして『少女の友』へと活動の場を広げていったと考えられそうです。
主要作家の中にはこれまでにしるした他に、初山滋蕗谷虹児といった画家、この雑誌の看板でもあった川端康成吉屋信子といった有名な作家、また全盛期に活躍した作家として由利聖子と内田百輭の長女である内田多美野、戦前から戦後までユーモア小説の挿し絵を担当した河目悌二などの名がある。内山基と結婚した内田多美野が編集者としての仕事以外に、中原淳一スタイル画などを掲載して後々の少女雑誌にも大きな影響を与えた有名な「女学生服装帖」で南由紀子の筆名で対談スタイルのアシスタントを務めたことは知る人ぞ知るのかもしれませんが私は初めて知りました。
明治に創刊されて、大正期には友ちゃん会が設立されて川端龍子が表紙や漫画を描き与謝野晶子の他有名作家も寄稿して、戦後は松本昌美が表紙を描き藤井千秋などが活躍、長谷川町子が漫画を描き、昭和30年の終刊号には手塚治虫の短編掲載とともに表紙にも手塚が描くマスコットが描かれるといった変遷を踏まえて、戦後の『少女の友』にも触れられています。また略年譜には大正2年から7年にかけて描かれた川端龍子の漫画も載っており、大正8年頃にはこの時期としては画期的だったとかつて聞いた組み立て付録らしきものの記述があります。

では明治にさかのぼるとそもそも少年少女雑誌の歴史はいつ頃から始まるのか、たまたま都立図書館による2001年の記事に載っていました。このころはまだ日比谷図書館に児童資料室があったようですが、今は児童資料は移されているはずです。

東京都立図書館所蔵 特別コレクションの紹介 第5回 みんなが読んだこども雑誌

明治十年に創刊されたらしい『穎才新誌』は週刊の投稿誌で山田美妙や尾崎紅葉も登校していたそうです。一見して子供向けにみえません。研究によるとまだ当時少女という言葉はなかったのですが女子の投稿もあったようです。つぎに明治十九年に大阪で出版された『ちゑのあけぼの』はやはり週刊で挿し絵など親しみやすく科学読物を載せるなどの変化が見られます。間もなく少年雑誌の草創期にいくつかの雑誌がうまれます。
また「少年」はもともと男女の区別のない言葉だったのが「少女」という言葉を作り女の子専用の雑誌が出されるのはおそらく明治の後半頃であり、このあたりの研究内容をよく記憶しておりませんが、先にも挙げた『少女世界』などはいわゆる良妻賢母主義に沿った誌面づくりをしていたようです。巌谷小波主筆に迎えた『少年世界』が後に果たした役割と比べるとほとんど特筆すべき面がなく大正期には他誌に人気を奪われ魅力に欠けていたようで、終刊間近の一冊を某所で見ましたが口絵に松本かつぢの叙情画が載っていたほかは執筆陣の名前もよくわかりませんでした。

『少女の友』のユニークさは100周年記念号を隅から隅まで読んでみるとなんとなくはわかると思います。もちろん副読本をいくつか持っているとかなり便利ですが今日は時間が尽きました。
戦前の資料としても比較的多くの巻数が残されているとはいえ6,7ヵ所くらいの施設を回ってもこの本を作るだけの情報は足りないでしょう。まさに労作であり一読の価値ありです。

『少女の友』とその時代―編集者の勇気 内山基

『少女の友』とその時代―編集者の勇気 内山基

女学生手帖―大正・昭和乙女らいふ (らんぷの本)

女学生手帖―大正・昭和乙女らいふ (らんぷの本)

最後に今までの内容と関連がやや不明瞭とは思いますが、少年少女文化に関する研究書で以下のような本が出ていましたのでご参考に。

少女少年のポリティクス

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