中公新書通巻2000点刊行記念フェア

ルミネのセールでかなり本を買い込んだにもかかわらず、月末でマンガ雑誌を買いに行ったら中公新書の通巻2000点刊行を記念したフェアをやっていて、つい手を出してしまう。
並んでいる新書に推薦の帯が付いているのである。

美学への招待 (中公新書)

美学への招待 (中公新書)

こちらはプラグマティズムの訳書を多数手がけている哲学者伊藤邦武氏の推薦文がついていて、美学についてわかりやすく書かれた本をつい探しそびれていたので買い。
ちょっとめくって巻末の文献案内を見たら、橋本治氏の『人はなぜ「美しい」がわかるのか』が紹介されていたのはとても面白い。主題については共感しているとは言えないが観念でなく経験の言葉で語られた驚くべき本であるという評価。

人はなぜ「美しい」がわかるのか (ちくま新書)

人はなぜ「美しい」がわかるのか (ちくま新書)

もう一冊は佐藤卓己言論統制』。今年の春「『少女の友』創刊100周年記念号」が出たが、戦時下に主筆を務めた内山基が戦時の言論統制にどう対処したのかという興味があって、試しに手をとってみたら、この本にかなり紹介されている。

推薦文を書いているのは教育社会学者の苅谷剛彦氏。

この本の主役は戦前の言論弾圧を主導したと言われる鈴木庫三陸軍少佐であり、この人物についての定説を覆すという点で確かに価値があるだろう。
ただ私はこの著者による「八月十五日の神話」をかつて読んで感心したのだけれど、その後戦前から戦時中の雑誌を読んでいるうちにこの本の内容に疑問を抱くようになった。つまりこの著者には定説を覆すことへのこだわりが強すぎて結果的に別の偽史を作ってしまっているのではないかという疑念を持つようになったのである。
この本でも鈴木庫三とは不倶戴天の敵として内山基が紹介されているが、その対立は政治的内容ではなく「趣味の違い」であるというふうに書かれており、これは私が調べた限りでの考えとは違うようだ。内山基には敗戦から生まれた戦後の反戦主義とは異なる、第一次世界大戦の悲惨が繰り返され軍国主義が暴走する日本にそれが及ぶことを恐れたが故の反戦主義があり、「少女の友」や「新女苑」には内山の文人趣味をまといつつ反戦主義を訴える企てはあったと考えているからだ。一介の少女雑誌や婦人雑誌のそのような政治性は現実には無力であったともいえるが、戦前思想を研究するのであれば第一次世界大戦が日本の思想に与えたインパクトまで確認する必要はあるのではないかと思う。戦前における見えない反戦思想には目を凝らしたい。多くの国民が戦時下においても厭戦的であったであろうことは疑えないのだから。