「大阪維新」プログラム(案)に対する意見と提言

大阪府立国際児童文学館の存続を訴えておりますが、疲れが取れず体調を崩したりでなかなかパブリックコメントを文章にまとめきれませんでした。なるべく6月中に送ってほしいとの呼びかけにすみやかにに対応できず情けない限りです。
すでに多くのパブリックコメントがネット上に掲載されており、自分の意見と提言も大きく異なるものではありませんが、ご協力をお願いしてきたものの責任として草稿を以下に掲載いたします。

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大阪維新」プログラム(案)に示された大阪府立国際児童文学館の廃止の方針について以下に意見と提案を述べます。

私はマンガ表現の研究から児童向け雑誌の研究調査を行ってきました。そのために国際児童文学館(以下児文と略す)も利用してきました。いろいろ利用してきた中でも抜群の施設であることを実感してきました。

児文は児童文化関連資料を収集保存する日本最大の施設です。収集対象には図書、雑誌のほかに、博物館や美術館が収集対象とするような原稿、原画、同人誌、紙芝居、ポスター、チラシ等があり、図書館が扱う範囲を超えた、いわゆる文学館としての機能を果たしています。歴史的にも重要な多くの貴重な資料が収蔵されています。
図書、雑誌は幼年から少年少女向け全般を扱っており、またマンガ関連の資料は他施設に比べてはるかに充実しています。というのは、かなり多くのマンガ作品が雑誌本体ではなく別冊の付録に掲載されてきて、図書館でも収集保管されていないものが多い中、児文は付録も収集対象としてきたからです。さらに、流通形態自体が異なるため納本対象から外れる赤本も収集してきました。赤本と紙芝居は大阪が独自に育んだ児童文化を理解する上でとても重要なものです。
かように多様な児童資料を収集保存し、子ども文化を調査研究して後世に伝えるためにとても大きな役割を果たしてきました。職員自身も研究を行い、利用者の多様化するニーズに対応するよう専門的な知識、ノウハウと運営のスキルを持っています。
本来図書館とは役割が異なる施設ですが、たとえば来館して書籍雑誌を閲覧するときの使い勝手のよさはきわめて高いレベルにあります。さまざまな利用者へのサービスがたいへん行き届いており文学館としては驚くほどに便宜が図られていることを感じます。一階のこども室が児童図書館的役割を担い、さまざまな催しが企画され、府民に開かれた施設です。
現在多くの資料が出版社のほか個人・団体・機関から寄贈されています。民間からの手厚い支援によって成り立っているのです。児文は官民協力の優良モデルとして評価されています。

以上を踏まえて、「大阪維新」プログラム(案)に示された以下の廃止の理由に疑義を呈します。
・年間入館者数が約65万人の中央図書館の中で事業を実施するほうが、多くの府民に提供しうる
・中央図書館へ移転することにより、運営の効率化が図れる

第一ですが、児文に収蔵されている資料は一般の公共図書館で閲覧および貸出される図書とは性質を異にしますので、単純に入館者が多いから多くの府民に提供できるという理由は判然としません。児童資料に特化したサービスによってさまざまな形での利用にきめ細かい対応ができるのであり、そのためにはコンパクトな館の構造と館員の専門的スキルがむしろ重要です。さらに児文のミュージアム的な性質は、親子連れが休日を過ごす万博公園のようなロケーションでこそ活きると思われます。
さらに資料の寄贈は、統合した場合のデザインが納得のいくものでない限り望めなくなるでしょう。文学館としての性格が民間の協力を可能にしてきたのです。
大阪府は官民協力をより推進していくために日本一の施設として世界に誇る児文のブランド価値を積極的に利用していくべきではないでしょうか。

第二に、運営の効率化が図れるという理由についても明確ではなく、これまでに記してきたことからも、むしろ効率の低下とサービスの不全を招くのではないかという懸念があります。児文が培ったサービスを移転後も維持しようとすれば慎重を重ねた検討が必要です。

廃止の方針は、児文が提供してきたかけがえのない価値を十分に考慮していないのではないかという懸念を抱かせます。拙速な廃止は紙芝居や赤本のような大阪で育った文化、さらには自国の文化への無知をさらけ出すことになり、これまでに寄贈をしてきた人たちの信用を損ない取り返しのつかない混乱を招き大阪のブランドイメージに大きく傷をつけてしまう危険をはらんでいます。

自治体の改革にはブランド価値を高めることがきわめて重要です。その点で大阪が持っている独自性と多様性のポテンシャルを強く意識していただきたいと思います。

今回の問題についてはインターネット上に多くの意見が掲載されました。この機会に国際児童文学館の存在意義と価値を広く知らしめて、大阪の文化の豊かさを再発見し内外に発信し、官民協力をさらに推し進めていく方向に可能性を見出していただくようぜひお願いします。もちろん利用者としてできることがあれば協力は惜しみません。