米沢嘉博記念図書館で発狂
いえね、先週は神奈川近代文学館の大乱歩展を見に行ったり、その前には漫画関係のレクチャーを聴いたりけっこう休日は幸せに過ごしていたのですが、神保町で第50回神田古本まつりもあったので開館当日の米沢嘉博記念図書館に寄ってきました。
お茶の水まで出るには通勤区間から思いっきり離れているため運賃が馬鹿にならないと、神保町ブックフェスティバルと弥生美術館とまとめて見に行こうとか思っていたのでしたが、朝から疲れがたまっていて土曜の午前中にBS2で一週間分まとめて放送している「ウェルかめ」を見ながら身につまされる思いにもだえつつ結局午後1時くらいまで家で過ごしてしまったので、弥生美術館行きはお茶の水に着いた時点でキャンセルし、もう漫画関係者の皆さんもそんなに残ってはいないだろうと思って4時頃にたどり着いたのが甘かったのでした。入ったらいきなりヤマダトモコさんが一階で受付をやっていて、二階のカウンタのほうも総動員の趣き。しかしそれ以上に開架に置かれていた少女漫画雑誌のセレクションが私の琴線に触れまくって、手にとって読んではおおっと歓声をあげたりと、いつにもまして狂っておりました。
開架に出されている本は全体のほんの一部にすぎないので、閉架の本を閲覧する場合には事前にできるだけ予備調査をしていないとちょっと困りそうですが、開架の少女雑誌の半分以上が私がもともと研究の対象にしていた80年代の少女漫画雑誌と70年代の女性漫画雑誌だったりして、70年代初めの少女雑誌も若干置いてあって、米沢さんの「戦後少女マンガ史」を読んで80年代に少女漫画雑誌を読んでいた人にとっては願ったりかなったりというセレクションになっていたのでした。あらためて思ったのは、80年代の少女マンガもしっかり狂っていたなあということ。たしか80年代はじめの「りぼん」とかこれはいったい小学生女子の読者層をターゲットにしているんですかと思うような雰囲気だったり、Kissの前身であったmimiが途中でいきなり中綴じの隔週刊に変わったりしていたこととか(これは当時気付かなくって、また月刊に戻っているはずなんですが)、コミケの興隆が80年代の少女漫画にいかに影響を及ぼしたのかという興味深い問題をあらためて認識させてもらいました。
あとは、たとえば萩尾望都は「なかよし」でデビューしていますが実はデビューした当時の「なかよし」って本当はどんな雑誌だったのかをきちんと語っている人っていないんじゃないかとかは真っ先に思いました。なにしろ萩尾望都本人が「なかよし」でのデビューを選択したのだし、80年代以降の「なかよし」のイメージで考えると絶対間違えると思います。あらためていわゆる花の24年組史観を一度解体して再構成するという作業は少女マンガ研究の中でも優先度が非常に高い問題だと思いましたが、そのカギを握る作家の筆頭が矢代まさこであろうことも予想されました。だいたい矢代さんの短編って相当いろいろな雑誌に描かれているのにそれゆえにコミックになっていないのが相当あるのではないかと思います。矢代まさこの再評価はぜひ誰か進めてほしいなあ。陸奥A子にしたってウィキペディアによれば1972年デビューとなっていますがこんな時期におとめちっくなんて言われてなかったはずで、そんな言葉がいつ生まれたのかすら検証されていないんじゃなかったかしら?
そんなわけでまだまだ少女マンガ研究者が全然足りないんじゃないか、という感を強くしながら頭の中にいろいろな思いが次々とあふれ出して発狂していたのでありました。開架の少女マンガ雑誌はあまり状態が良くないものも多く、取り扱いはちょっと気をつけたほうがいいです。
ザ・マーガレットに載ったあきの香奈の初期作品と(あきの香奈はザ・マーガレットに作品を載せたことがないと思い込んでいたのですが勘違いだったのか)やまだないとのデビュー直後の単行本未収録作品を読んで(デビュー時は山田朝子名義)、6時に館を出ようとしたところで入り口に入ってきた藤本由香里さんに出くわして思わずびっくりしました。
私が漫画関係でたまたま面識を持った女性の中では、藤本さんと水沢めぐみ先生は断然ガチなんですよ。どんなにモデルのような美人でもそれだけでは普通の女性とあまり違う感じはしないのですが、なにか言葉では言い知れない天性の女優性のようなものがあるのです。変なたとえですが(というのは最近のスターに疎いもので)長沢まさみや蒼井優にはほとんど感じられないのに宮崎あおいからはビンビン伝わってくるオーラみたいなものがですね、あるような気がします。水沢さんは一般的に言うような美人というのではないのですが、本人が自分の描いている漫画そのものを全く裏切らず決してぶれないところは変な言い方になりますが常人離れしたすごさを感じさせるのです。それにしてもなんでこんな話をしているのかというと、9月に伊藤剛さんの発表を聴く機会があった日の夜に、デビュー40周年記念のミニパーティーに呼んでいただいたということがありまして、その場でサークルで先輩だった人から谷川史子さんの話をちょっと聞いたのですが、私はその話を聞いて谷川先生もどうも水沢めぐみと同じくマンガと本人が直にリンクしているタイプらしいように話を受け取ったもので(少なくともとても美人でマンガのイメージそっくりなのだそうです)、藤本さんと出くわしたときにふとそんなことを思い出していたので、要するに館内で自分はずっと発狂していたんだなと思った次第でありました。
図書館を出て神保町に出てみたのがすでに6時過ぎで、パンフなどを手に入れたところ、神保町ではいろいろとイベントが開かれていたようで、たとえば16時から坪内祐三さんの講演会があったことを知って、事前予約が必要だったらしいのでいずれにしても聴けなかったようですが、せっかく催しごとがあって出かけるのであればもっと事前にいろいろと情報を調べておけばよかったと、今回は妙に予定が狂ったので痛感したのでありました。いやどうも乱文になってしまいましてまた3日も何かあったはずなのでチェックしておかなければいけません。
先週の大乱歩展の記念講演会の話とか、漫画表現における修辞(レトリック)の問題とかについてもいま少し書いておきたいのですが、ちょっと時間がないので、本だけ紹介しておきます。
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ドゥルーズ=ガタリのこの本に何が書いてあったかよく覚えていないのですが、そういえば脱領土化ってのがこの本のキーワードだったような。宇野邦一氏による新訳で文庫だと意外と安いとおもいます。
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