なんだかマンガと関係ない話ばかりで恐縮です。

きょうもいろいろとイベントがあったようですが目が覚めたのがお昼過ぎだったのでいろいろと断念。
マンガ関係の話題をはてなの外に移そうと思ったのはゼロアカみたいな動きにロートルなりにつきあってみようかなと
思ったというのも一つの理由なんですが、でもオレは思想家じゃないしな、というか論戦するほどのパワーと
エネルギーは本当になくなってきて、肉体年齢的に60歳越えているような感覚をまず何とかしなくちゃならんし
弛緩しきった文体もなんとかしたいんですけど、一応自分は哲学者ではあるので、いやもちろん哲学を教えて
メシを食っているというんじゃなくてもちろん自己申告であって、哲学者になることそれ自体は難しいことでも
なんでもありません。自分がわからないことについてわからないことをわからないなりに納得するまで
突き詰め続ければいいだけの話で、ただ毎日こればかりやっているとふつう生活は苦しくなります。

たとえば近代科学というのは自然現象を数式で記述して、実験して測定結果をその数式に当てはめて一致するから
正しい、そこからさらに仮説を立てて検証するというのを続けて発展してきたのですが、
それではなぜ自然現象と数式は一致するのか?という問いの立て方をした時、それは端的に言って謎としかいいようがありません。
実際ニュートン力学の方程式が成り立つのはユークリッド空間と絶対時間という前提があってのことで、
原子レベルや光速を考慮に入れる必要のある現象ではその数式は使えなくなる。
そういうことがわかって来た頃、数学の世界ではユークリッド幾何学の平行線の公理というのは自明なんだろうかと
疑問を投げかける者たちが現れて、別の前提を使ってみたらそれで幾何学が成立してしまったということがあって、
そこからアインシュタイン相対性理論が生まれ、一方それと並行して電磁気学のほうから新たに量子力学の考え方が
生まれてきて、それでとりあえずミクロから宇宙までのスケールで自然現象を説明できることがわかったというのが
私がかつて習った限りでの近代物理学の歴史です。これを数式のレベルで考えると、ニュートン力学の方程式とは
異なる方程式を見つけることで物理現象が記述できるようになって、これらについて光速に比べて十分遅い速度と
人の暮らす日常空間のスケールにまで制約を課すと、それはニュートン方程式で記述できるレベルにまで変換できる
ということになると思います、と思いますと書くのはいま私の身近にこれで合っているかどうか確認する理系の人が
いないからですが、クーンが提唱したパラダイムという考えの前提には、このような跳躍が起こったことをどう
考えれば良いのかという疑問があったのでしょう。
ちょっと記憶力に自信がなくなっているのであの本のあそこに書いてあったとか思い出せないのですが、いずれにしても、
数式と自然現象に関する測定結果が一致するそのこと自体は、なぜか一致するとしかいいようがない、
それを前提として受け入れなければ物理学は成り立たないのですが、そのへんの素朴な答えようのなさそうな疑問について
何か考えてみるというところで科学哲学のような営みも成されてきたということになるでしょう。

私自身は基本的に素人なのでここまで書くのにちょっと疲れてまいったな、と思っているのですが、最近
科学哲学早分かりともいうべき本がでていたので、紹介のためにちょっと長い前ふりを書いたというわけです。

科学哲学入門―知の形而上学

科学哲学入門―知の形而上学

この本は二部に分かれていて早分かりというのはその一部の側にあたります。文系向きに理解できるように書いた
とのことなので新書を読むような感覚で読むことができて、ある意味この割り切りようはすごいと感心してしまいました。
論理実証主義がなぜ失敗に終わったかを、ウィトゲンシュタインの『論理哲学論考』のここが間違っていると
具体的に指摘してさっさとポパーへと移り、反証可能性に関する問題点をパトナムの議論によってさっさと指摘して
クーンへと移り、社会構成主義への批判まで一気に突き進みます。例のソーカル事件については金森修氏の著作を
紹介してさくっと流していますが、さすがにソーカルにこだわる段階は過ぎていると思います。

第二部ではパトナムの内的実在論が抱える問題を解決するという点で著者のオリジナルな論考に入りますが、
著者はサールの議論を援用して唯名論を採り入れる試みをしているようです。第一部の内容に関しては他にも
もう少しとっつきにくい本ならばけっこうでているのでこの程度の紹介でもいいかと思いますが、第二部のほうに
ついてはちょっと私では判断できません。ちなみにパトナム自身は最近になって内的実在論の立場を捨てていますが
新しい立場は「直接的実在論」とか「自然な実在論」とか日本では紹介されていて、興味は惹かれるのですが
ダメット反実在論などを含めて不勉強なので、興味がある人はチャレンジしてみたらどうでしょう。
(そのまえに本当は形而上学についてきちんと理解する必要があるのでしょうけど)

とりあえずポパーとクーンを思想的に一緒くたにしてしまうような粗雑さはこの本を読んで回避できます。
ニセ科学に並々ならぬ関心を持っている人がたまにいますけど、それならばこの本はおすすめではないでしょうか。

誤解なきように言っておけば科学哲学に関する本そのものは科学を否定するような立場とは全く逆の立場で書かれている
ので、これは至極あたりまえのことですが、私に科学そのものを批判する意図がないということは記しておいたほうが
いいのでしょうね。