「国立メディア芸術総合センター」はお台場ではなく万博公園に

文化庁が「国立メディア芸術総合センター」(仮称)をお台場に作るという構想が発表されたというニュースを聞きましたが、なんでお台場なんて場所を候補にするのか、と思います。「アニメ美術館」なんて勝手に名付けられていますけど、アミューズメントパークじゃああるまいでしょうに。しかも建設に117億円かけるそうですけど。

(参考)
お台場にアニメ美術館=11年度完成、目標は年60万人−文化庁
http://www.jiji.com/jc/zc?k=200904/2009042801059
アニメやゲームに国の「殿堂」 東京都内に設立構想
http://www.asahi.com/culture/update/0409/TKY200904090145.html

大阪国際児童文学館は府議会で廃止の決議が通されてしまいましたが、国会図書館にもないような文化財である史料を大阪府の図書館に移しても展示機能が向上することもなく、正直言って子ども向けに消耗していい本以外はまともに閲覧もできないなんてことになればなんのメリットもありません。ちなみに児童文学館への最寄り駅を通る大阪モノレール彩都線は、本数が増えて万博記念公園駅からの乗り継ぎがスムーズになっていました。これならJR沿線からお台場までゆりかもめとかを乗り継いでいくのとさほど差がないじゃないですか。
だいいち大阪国際児童文学館のすぐそばには国立民族学博物館があるのですよ。

なにもかも東京に集中させるのではなく、貴重本は電子化してブック端末で閲覧できるようにするとか、思い切った構想を立ててほしいものです。国際児童文学館の資料も古い雑誌など一冊ごとにビニール袋で保護していて劣化の危険にさらされており、図書館への移送だけでも崩壊しかねないものもあるのですから、117億円もの建設費用を予算案に組むのであれば、いまある大阪国際児童文学館の場所に展示館を増設してメディア芸術総合センターの分散した一センターとして機能させ、東京だけでなく各地にサテライト館を建ててリモートでも利用できるようにするとかということを考えてもらえませんか?
すでに20年以上にわたって存在するものがあって、いろいろなノウハウが蓄積されているのですから、それを継承しないでどうするのって思うのですよ。
それともまさか国際児童文学館が保管してきた歴史的な資料は「メディア芸術」と関係ないとでもおもっているんでしょうかね?
それから運営は独立行政法人国立美術館が外部に委託するとのことですが、その委託先というのはどうなるのか、別に民間でもかまいませんが、漫画やアニメみたいなものを扱う場合にまだプロフェッショナルといえる人材は決して多いとは言い難いという状況もあるのですが。単なるアニメ美術館と思われるなんて現状じゃあ先が思いやられるというものでしょう。

幻と消えた国立産業技術史博物館の、寄贈されたまま万博公園内に置かれていた、江戸時代以降から作られた産業遺産資料の大半が放置されつづけた挙句、今年の3月に廃棄処分にした事件は、ほったらかしでいい加減な扱いをしてきた大阪の恥ずべき汚点として後世まで残るでしょう。

(参考)技術に定見を欠く人材育成がもたらしたもの
http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20090403/190980/

敗北宣言。大阪の産業遺産資料は廃棄完了しました。
http://stroller.blog.eonet.jp/stroller/2009/03/post-03a9.html

このような無定見に対して、私は今回の大阪府が決めた国際児童文学館の廃館と資料移転についても不安をまったく払拭できないでいます。

国際児童文学館に保存されてきた資料も明治以降の日本の子どもに限らない庶民にとっての近代を知る上で重要な資料が多く、メディア研究にも欠かせないものです。これは大阪府民だけではない国民の貴重な財産として国がきちんと守る類いのものだと思います。
国際児童文学館を大阪府が維持できないというならば国は東京に大きなハコ一つ作るのではなく地方の活性化も考えてほしいものです。

国際児童文学館との関連でちょっと補足:

そもそも「メディア芸術」とは何ぞや、という点でちょっと気になったので、文化庁のページなどを見たりしたのですが、どうも定義が難しいと思って最近読んでいない美術手帖のような雑誌の記事などをちょっと思い浮かべて、メディアアートで検索しなおしたところ、ウィキペディアに項目がありました。

メディアアート
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A1%E3%83%87%E3%82%A3%E3%82%A2%E3%82%A2%E3%83%BC%E3%83%88

この解説をざっと読んだだけではマンガってメディアアートなのかという疑問も出てくると思われますが、新聞、雑誌という日本では独自の発展を遂げたともいえるメディアの特徴が漫画表現を育てたということではメディアアートと呼んでいいかと思います。
ただし、国際児童文学館は児童文化に特化した施設であり、その中にはもちろん文学作品が含まれている、というより中心であるので、メディアアートには包摂できないのも確かです。その包摂できない部分を分けてしまうのはもちろん良くないと思います。そういう意味では、「国立メディア芸術総合センター」を建設するのであれば、そのためにかける費用を児童文化の保存のために使ってくれないか、それはメディアアートとも関わりがあるのだからというのが、私がこのエントリを書いた意図です。

大阪府のページに国際児童文学館が設立された際の条例が載っていました。恥ずかしながらこの辺りまで目を通していなかったので関心を持つ方のためにリンクしておきます。

大阪府立国際児童文学館条例
http://www.pref.osaka.jp/houbun/reiki/reiki_honbun/ak20110111.html

大阪府立国際児童文学館条例
(設置)
第一条 児童文学等の振興を図り、もって児童の健全な育成に資するとともに、児童文学等を通じての国際交流に寄与するため、大阪府立国際児童文学館(以下「児童文学館」という。)を吹田市千里万博公園に設置する。
(平一七条例一四〇・一部改正)
(事業)
第二条 児童文学館は、次の事業を行う。
一 児童文学、児童演劇、児童音楽等(以下「児童文学等」という。)に関する図書、記録その他の資料を収集し、及び利用に供すること。
二 児童文学等に関する講座、講演会等を開催すること。
三 児童文学館の施設を児童文学等に関する活動の用に供すること。
四 児童文学等に関する相談を行うこと。
五 児童文学等に関する調査及び研究を行うこと。
六 児童文学等に関する資料及び情報を諸外国と交換すること。
七 前各号に掲げるもののほか、前条の目的を達成するため必要なこと。

最初の部分を引用はしましたが、以降は略しましたのでリンク先をご覧ください。

やなせたかしと独立漫画派

かなり以前のエントリやなせたかし氏が独立漫画派に所属していたことを描いているのですが、美術館に見に行った時は、独立漫画派という言葉は出てきませんでした。
やなせ氏の仕事を全体として見れば徹底して通俗を貫いたとも言えるかもしれません。
長新太久里洋二井上洋介などのアクの強さと比べると、親しみやすく万人に愛される面があったと思いますが、ギャラリートークを聞きながら、やなせ氏に独立漫画派のことを聞くのはもしかするとちょっと難しいかもしれないという予感がしました。
中村正常氏(中村メイコの父親で小説家)でのことを聞けるだけの用意があれば別かもしれませんが。
少女の友の限定復刊号で安野モヨコさんがインタビューを受けていましたが、小島功さんが中心だったとしたらこちらからのほうがわかりやすいかもしれない。
やなせ氏はいずみたく永六輔などテレビで活躍した人との交流があって、そのあたりから次第に知名度を上げたのではと思われます。
「詩とメルヘン」という雑誌をサンリオから出したとき、ある人は3号と持たないだろうといったとのことで、つまりサンリオ流の通俗性が評価されなかったのでしょうが、結果的に大衆的支持を受け人気作家を育て、叙情画ブームをもたらしもしました。
アンパンマンの最初の子供向け絵本「あんぱんまん」を出したときは「詩とメルヘン」どころではなく酷評されたそうで、つき合いの長い担当編集者からもこういう本は今回限りにしてくださいと言われたそうです(記憶違いならすみません。でもなんか顔を食べさせるってのは独立漫画派っぽいかも)。しかし大人がグロテスクで残酷と思ったこの本が次第に幼稚園などで子どもたちに人気が出たとのことで、アニメにしたのがやはり大成功につながったのでしょうね。

やなせたかし (らんぷの本)

やなせたかし (らんぷの本)