デジカメは今年十歳になった

唐突ですがコンシューマ向けのデジタルカメラが登場して今年で十年経ちます(本当は違うのですがそういうことにしておきます)。

デジカメの発祥とその大まかな歴史はこちら
http://www.jcii-cameramuseum.jp/events/20001024.htm

コンシューマ向けデジタルカメラの登場とその発展についてはこちら。
http://www.jiten.com/dicmi/docs/k19/19243s.htm

1995年と言えば日本は阪神大震災地下鉄サリン事件で騒然となったいやな年ですが(実は私この頃からあまりテレビを見なくなっていてエヴァンゲリオンっていまだに見てないんですけど)、Windows95が発売され、それまでマッキントッシュの独走状態だったGUIが、それまでMS-DOSを走らせていたPC-AT互換機でも本格的に使えるようになった年でした(Microsoft ExcelとWordはもともとMacキラーアプリで、今でもMacWindowsのデータ互換性は十分。OpenOffice.orgはフォント互換がまだうまくいってないのでは。フォントはMacのほうがいまでも圧倒的にきれいだと思います)。そして、デジカメの歴史に残る対照的な2つの機種が登場しました。
一つがカシオ計算機QV-10、もう一つがリコーのDC-1です。

QV-10について
http://www.wan-in-black.com/digi_camb/qv_10/qv_10.htm
http://ja.wikipedia.org/wiki/QV-10

DC-1について
http://www.itojun.org/digi-cam/dcfaq/dcfaq.part.2.html

今の一眼レフを除くコンパクトデジタルカメラのコンセプトはこの2機でほとんど出尽くしています。なかった機能は手ぶれ補正機能くらいでしょうか。

3月に発売されたQV-10はそれまでの特に2つの点でカメラの常識を覆すものでした。

  • 回転式レンズ機構
  • 液晶モニタ搭載と光学ファインダーの削除

素数は25万画素で、実際、カメラ業界からはカメラ扱いされていなかったような気がします。
私もこれはおもちゃだと思いました。価格は65000円で、デジカメとしてはじめて10万円台を切ったマシンですが、これは私には高い買い物にうつりました。

一方の6月に発売されたDC-1はカメラメーカーであるとともにマルチメディアに力を入れているリコーらしいオペラグラススタイルのデジカメでした。
この41万画素のマシンは次の点で画期的でした。

  • 静止画/静止画+音声(10秒)/連写/動画(5秒)/音声/文字(接写)撮影の5つの動作モード
  • f7.1〜f21.3mm3倍ズーム(35mm換算50mm〜150mm)

つまりスチルカメラにもかかわらず動画と音声が記録可能だったのです。
それからズームですが、オペラグラススタイルなのでレンズが飛び出したりしません。デジカメのズーム機能はサイズと価格に影響するため次のDC-2ではズーム機能を削り、新規参入他社もしばらくの間(2年くらい?)ズームつきカメラに挑戦する技術がなかったのでしょう、それゆえにDC-1がいかにとんでもないカメラかを実感させるものでした。
QV-10に搭載されていないストロボ内蔵で、単体では光学ファインダのみで液晶モニタは外付けオプションで、面白いのはこの外付モニタのほうが角度を可動できました。
リコーの売りである1cm接写というのも(DC-1Sから?)驚いたものですが、QV-10も10cmから接写できました。
DC-1は高機能をどれだけ小型化して実装するかの当時の限界に挑んだマシンでもあり、私は当時はこちらのほうにデジカメの革命を見たのですが、周辺機器を揃えると20万円を超えるため、手が出ませんでした。ズームが搭載されはじめたころ値崩れしたのを名機だからと思ってボーナスはたいて買いましたがそれでも15万円しました。あの頃の私を後ろからぶん殴りたい気持ちです。

Macに詳しい方なら、この2機よりも前に民生用のデジカメがAppleKodakから発売されていたことはご存じでしょう。

Apple QuickTake100 コダック製 1994年1月発表

http://www.mactechlab.jp/mactech/modules.php?name=News&file=print&sid=41


それからデジカメの年表がこちらにありますが、1995年3月のところにDC40があります。
http://www.digicamezine.com/digicame/makermatrix.htm

38万画素で99,800円と10万円を切っています。

Appleというのは変な会社で、Macintosh Plus, SE, G4Cube, Mac miniとデスクトップマシンはめっぽうコンパクトなマシンを出しているのに、ノートに関しては無駄にでかいマシンが多いです。もちろん、これは日本人の感想であってごつくでかいアメリカ人にはコンパクトなノートはキーボードが使いづらいのだろうと思いますが。カメラにしても購買意欲をそそるものとは言いがたいものでした。
しかしWindows95のリリースに先駆けて低価格のデジカメが発売されたことが、95年の2つの名機の登場を必然としたことでしょう。

オリンパスもデジカメを早くから手がけており、先の年表の95年6月のところにあるDELTIS VC-1000II HSがありますが、このDELTISシリーズは以下のURLにあるように、1993年に41万画素で520000円という価格から95年の時点で248,000円と、DC-1のセット(DC-1は単体価格149,800円のようですね)と同じくらいの価格になっています。オリンパスはブランド名をCamediaに変えて一時は勢いもあったんですが。

http://www1.harenet.ne.jp/~hiharada/plink/pl42/pl4205.htm

オリンパスソニーもデジカメでは先行メーカーだったわけですが、95年にあっさり風向きが変わってしまったのでした。カシオとリコーにはWindows95の登場をおそらく前提として従来のカメラのデジタル化にとどまらないデジカメの将来についてのビジョンが明確にあったのでしょう。これはたまたま商品コンセプトが社風に合致したというか運が大きいと思いますけど。

QV-10やDC-1に飛びついたのはジェフリー・ムーアのキャズム理論で言うところのイノベーターやアーリー・アドプター(オピニオンリーダー)たちといえるでしょうが、DC-1は今の携帯電話のようにコンパクトで多機能で、メカフェチでお金に余裕がある人向けであるのに対し、QV-10はガジェットで遊ぶのが好きなオタクに圧倒的に支持されました。DC-2がズーム機能を外してサイズも大きくなったように、QV-10の<手ごろな>価格が支持されて市場が一気にふくらんでいきました。真のイノベーターは<オピニオンリーダー>ではなく<オタク>だったんじゃないかと思います。
(参考)
http://www.mitsue.co.jp/case/concept/02.html

キャズム

キャズム

さて、そこで破壊的イノベーションの話になるのですが、ちょっと面白いことに、オリンパスのDELTISブランドはデジカメから離れて奇しくもMOドライブに受け継がれていたのですね。ここで余談ながら私の持っているデジカメはDC-1Sとオリンパス Camedia C-2020 Zoom、Minolta Dimage Xgの3台です。しかし3台も持ってどうするんでしょう。DC-1Sは値が付けば売ってもいいかと思っているんですが。そんなこんなで今年のリコーは何か面白いものを出さないか気になっていたのですが(広角が売りなんですよね)ところが今年はどうも一眼レフブームのようで地味に見守りたいところ。
クリステンセンの「イノベーションのジレンマ」は、ディスク・ドライブ業界におけるプレイヤーの栄枯盛衰について調査分析して、破壊的イノベーションの現象を見いだしました。私のおぼつかない理解によればQV-10はデジカメにおける破壊的イノベーションをもたらしたということになるでしょうか。
(参考)
http://www.infoscape.jp/tms/mot/book1.htm

イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき (Harvard business school press)

イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき (Harvard business school press)