美術としてのマンガをどう鑑賞するか

ここ20年間くらいの傾向として、誰もが物語を過剰に求めるようになったのではないかと思う。世界は物語でできているわけではないのだが、美術の鑑賞の仕方にもストーリーを求めようとする傾向が以前よりも高まったのではないかと思う。見てその価値がよくわからないものについて物語をかたることによって価値づけをおこなうことはある種不可避ではあろうが、美というものが物語の形式に何もかも還元されるとは思わない。言葉で説明できないことをただそれが存在するということとして肯定することができなくなっているような気配がいたるところに漂うような気がするのは私の錯覚だろうか。
マンガに目を転じると、それを美術として語ろうとしつつ実のところそれは作画および演出の技術の巧拙を語っているに過ぎないといったことが多々あるのではないか。マンガを美術として捉える作法というものは果たして元からなかったのだろうか。

そのへんの漫画に関する言説についてはきちんと見直してはいないが、もっと単純な例として、マンガを美術館に展示することはさまざまに試みられてきた。このあたりの問題をおそらく初めて一つにまとめた本が出ていた。先週見つけたのでまだ読み終えていないけれど、国際児童文学館の問題とも絡むであろうし、なるべく限られた読書時間の中で優先的に読むようにしたい。

マンガとミュージアムが出会うとき (ビジュアル文化シリーズ)

マンガとミュージアムが出会うとき (ビジュアル文化シリーズ)

昔の漫画を見るうえで、20世紀の絵画についてわかりやすい見通しを持った本がほしかったが、先日たまたま以下の新書を見つけた。

20世紀絵画 モダニズム美術史を問い直す (光文社新書)

20世紀絵画 モダニズム美術史を問い直す (光文社新書)

著者は惜しくも今年の5月に急逝されてしまったが、大した予備知識がなくても読み進めていくうちに20世紀の絵画について得るところはあると思う。
後者の新書には巻末に謝辞が載っていたが、その中にマンガ研究者としても活動しているジャクリーヌ・ベルント氏の名前があって驚いた。しかし本の後半は戦後の東欧の絵画を通して20世紀西洋の抽象絵画以降の流れを違う見かたを通して再検討するような内容になっていて、そのあたりの紹介に関与したのであろう。
ベルント氏には前者の本に先行する論考も書いている。そのほかにもマンガ研究に携わる者のさまざまな参考文献が載っており、最初の一冊として十分な価値があるだろうと思います。